2017年8月31日

第55回 実相寺昭雄と『ウルトラQ』

 実相寺昭雄は1963年、すでにドラマのディレクターとしてデビューしていた。寺田農、杉浦直樹、古今亭志ん朝が主演のドラマ『でっかく生きろ』(音楽・冬木透)を演出して、野心的なセット設計と映像で話題を呼んだが、途中降板になってしまう。

 次に歌謡ショーの中継ディレクターとなり、技術部に注文して重いカメラをハンディーで持てるように改造。歌手に近づき、アオリで撮って中継するなどしたため、上司から「あまりやんちゃするなよ」と言われて、演出を外されていた。

 先輩で親分肌の円谷一ディレクターは、フランスとの合作テレビ映画『スパイ/平行線の世界』のアシスタント・ディレクターとして実相寺を使い、「いずれ円谷プロで拾ってやるから、まず『ウルトラQ』の脚本を書いてみろ」と発注した。

 出来上がってきた「キリがない」という脚本は、池や水道から不思議な不定形のモンスターが現れる不条理ストーリーで、中川晴之助監督作品の予定で台本も印刷され、準備が進みながら製作はされなかった。大和書房から1980年代末に出た『夜ごとの円盤』という、実相寺の自作脚本集で読むことができるが、中川演出で見てみたかった不条理モンスターだった。

 もう1本、人間の夢を食べる怪獣の出る「バクタル」という脚本も実相寺は考えるが、こちらは印刷台本にならず、形を変えて後に『ウルトラマンダイナ』で自ら監督してドラマ化した。『ウルトラマン』の打ち合わせの中で、夢と怪獣というアイデアを話して、それが脚本家・佐々木守にインスピレーションを与え、子供の夢と怪獣をからませた「恐怖の宇宙線」のガヴァドンが生まれたのかもしれない。

2017年8月30日

第54回 幻に終わった「オイルSOS」

 『ウルトラQ』には、『アンバランス』の仮題時代に書かれた「幽霊自動車」(作・村田武雄)のように映像化されなかったNG脚本があるのだが、ロケハンまでして中止になったのが「オイルSOS」(作・上原正三)だ。

 1975年頃、円谷プロで竹内博さんに脚本を見せてもらって、製油所から洩れたオイルの海洋汚染で変異したモンスターが製油所や街を襲う公害テーマの話で、1965年頃にこういう怪獣ストーリーを円谷プロは考えていたのかとびっくりしてしまった。
 製油所でロケーションするつもりが、洩れ出たオイルで汚染が起きる内容に、メーカー側が難色を示し、脚本家・上原正三のデビュー作になるはずがNG稿になってしまう。

 上原正三は、金城哲夫の1歳年上の沖縄生まれの青年で、金城に誘われ、円谷プロに出入りして、原稿の受け取りや催促を頼まれて作家や監督のもとに通っていた。野長瀬監督夫人は「金ちゃんとかウエゴンとか、主人はよく呼んでいましたね。皆さん、若かったんですよ」と、当時のことを教えてくれた。

 その上原の「化石の城」という脚本が改稿されて「ゴーガの像」になる。野長瀬監督の「007みたいなスパイ物のタッチを怪獣と組み合わせてみたい」という注文で生まれた、異色の暗黒街タッチのドラマで、的場徹特技監督の手数の多い特撮アクション作品として完成していく。

2017年8月28日

第53回 現存しているラゴン・ヘッド

 1980年代に高山良策さんのアトリエ・メイを訪ねると、壁にアボラスとゴモラ、ラゴンのヘッドが無雑作に掛けられていて、「これは?」と聞くと「ぬいぐるみを改造して別の怪獣を作るので、頭部だけ切っておいたのが、なぜか残っていたんだよ」との答え。

 ラゴンのボディは後に『ウルトラマン』のザラブ星人になっていて、カラーで登場した時にグリーンを強調するために再塗装したのか、ラテックスの端が溶けていたが、その目力と鼻から口へのモールドはラゴンそのもので、クチビルや口内の歯のモールドをじっくり見せてもらって、品格のある造形に唸ってしまった。

 高山さんは、ぬいぐるみのスーツ製作で武蔵野美術大学の学生を何人かアルバイトに雇っていて、そのアルバイト代に間違いのないよう詳細な日誌をつけ、スナップ写真も残している。この造形日誌の一部は雑誌『宇宙船』で、安井ひさしさんが高山さんの了解を得て『高山良策怪獣製作日記』のタイトルで再録・発表している。

 ラゴンは全身のモールドが凝ったもので、両脚の足先にかけてのウロコとも突起ともとれるモールドは、スナップ写真を見ると、フィルムに映っていないディテールに「ここまでこだわるのか!?」と驚いてしまう。

 高山さんに聞いた怪獣の肌の話。
「動物の肌というのは、昆虫もそうだけど、人間のようにワンパターンじゃなくて独特のモールド、形状がある。それをうまく出せると、生きた感じがするし、1体、1体の個性になると思って、毎回いろいろ考えて作業していたんだよ」

2017年8月27日

第52回 海底原人という名の半魚人

 野長瀬三摩地監督にはぜひ聞きたい話があった。
「『海底原人ラゴン』は3人連名の共同脚本になっていますね。あれはどういう事情だったんですか?」

「あの脚本は最初、あの島の近くの海に住んでいる半魚人が出てくる話で、これでは映画の『大アマゾンの半魚人』と同じみたいで物足りない。もう少しアイデアが欲しいと言ったら、円谷プロに出入りしていた大伴昌司君が〝SF作家の小松左京さんが日本を沈没させるアイデアを話していた〟というので、それで島全体が沈むアイデアを付け加えて、それから深海から浅瀬に転がってきたラゴンの卵とか、音楽を流すとラゴンには波の調べに聞こえて大人しくなるという設定で、ラジオを使ったサスペンスを僕が思いついて入れたり、どんどん膨らんで別の脚本になったので連名にしたんだ」

「でも、ラゴンの名前を考えたのは山浦弘靖君だったと思う。ラグーンから思いついた、いいネーミングだった。ラゴンは造形も素晴らしかった」

 成田亨デザイナーも、ラゴンはお気に入りのキャラクターだった。
「ラゴンは女性のモンスターというのが面白くて、高山良策さんにも胸を大きくしてくれと頼んだし、下半身に割れ目を作ってもらったんだよ。海草で隠してあるけどね。
 ウェットスーツをベースに作ってもらったんだ。7頭身の俳優の古谷敏さんが入ってくれて、スーツのバランスも良かった。原人だから知恵もある感じで脚本も面白かったし、博士の妹との交情も、怪獣でこういう話ができるんだという嬉しさがあった」

2017年8月26日

第51回 等身大モンスターの面白さ、ラゴン

 「海底原人ラゴン」を見ていて新鮮だったのは、人間と同じ大きさの等身大モンスターでも作り方次第で面白いという事実だった。漁船の上で網を修繕している若者(黒沢年男)が悲鳴をあげ、次のカットで港の海面を、上半身だけ出して波を蹴立てて後ろ向きに進んでいく不気味さ。「助けてくれーっ」と叫んでいる映像にまずびっくりした。

 野長瀬三摩地監督に会った時、「あれはどうやって撮影したんですか?」と聞いたら監督はニヤリと笑って答えてくれなかった。おそらくアクアラングで水中に潜って、黒沢年男の脚を引っぱって泳いだのだろうと思うのだけれど、人間が怪物に水中に引き込まれる様を描いた映像の中でも別格だった。

 闇に包まれた村の中に、目を光らせ、静かに進んでいくラゴン。酔っぱらった村人が「こんなデカい奴、島にいたかな?」とつぶやくギャグと紙一重のサスペンスの見事さ。江幡高志というベテラン俳優の演技もうまいのだが、この闇夜に、両手を挙げて静かに獲物を求めるかのようにさまよう等身大モンスターの描写は、野長瀬作品の特徴で、後に『ウルトラセブン』のワイアール星人でさらにパワーアップして再登場する。

 触っただけで村人の家を壊してしまうラゴンのパワーの見せ方も独特で、野長瀬監督はこう解説してくれた。
「ラゴンは水圧の高い深海に住んでいるから、地上に出ると怪力の持ち主になり、あの崩れる家も屋台崩しの仕掛けを作って壊したんだよ」

2017年8月25日

第50回 いつか撮りたかった南海の恋と冒険

 喜多見市の野長瀬三摩地邸でコーヒーをご馳走になりながら『ウルトラQ』の話を聞いていると、「南海の怒り」(脚本・金城哲夫)について意外な話になった。

「円谷プロの文芸部にいろいろな台本があったんだけど、その中でこれ(南海の怒り)を見つけてね。
 君たち若い人は知っているかな。1940〜50年代、アメリカの冒険映画に、南海を舞台にして漁師や水夫の青年が宝探しや遭難、悪人との攻防とか、現地の黒髪で褐色の若い娘と恋に落ちたり、サメやゴリラ、ワニと戦ったりする海洋アクションのジャンルがあったんだ」

「ドロシー・ラムーアという黒髪で脚がきれいな女優が有名でね。いつか、僕もそんなジャンルの映画を撮ってみたいと思っていたから、〝この台本でやってみよう〟と思ったんだ」 
 私は聞いていて「日本の映画監督なのに、南海の恋と大冒険か!? すごい発想の人だな」と思った。

「聞いてみると、大ダコの特撮が難しいという理由でNGになっていたんだって。それで『キングコング対ゴジラ』の大ダコの特撮シーンを借りて、特技監督の的場徹さんに大ダコの脚だけ新規に撮影してもらえればやれるよと言って、東宝の助監督時代から旧知の久保明さんに出てもらって、ヒロインに新人の高橋紀子さんを起用して進めたんだ。異色の『ウルトラQ』になったと思うよ」

「『キングコング対ゴジラ』のカットにつなげるため、移動車を組んで撮影したんだけど、その後、円谷プロに行ったら金城哲夫君が〝野長瀬さん、ついにやったそうですね〟って言うので〝何が?〟と聞いたら、〝大がかりな移動車を使ったそうじゃないですか〟と嬉しそうなんだ。みんなで〝黒澤組みたいな大がかりな撮影を、いつ野長瀬さんがやるんだろう〟と話してたんだって。オヤオヤと思って笑っちゃったよ」


2017年8月24日

第49回 オープニング・タイトルのアニメ処理

 「地底超特急西へ」のオープニング・タイトルは、まず「地底超特急」という文字が入ってきて、下に丸いコンパスがあって、ブレーキ音と共に「西へ」の文字がフレーム・インして、コンパスの針が西を向く……「なんてかっこいいタイトルなんだ」と、これまたびっくりした。

 中野稔さんは合成を使ったタイトルについて、こう語った。
「『ウルトラQ』は、製作の古い作品は『マンモスフラワー』『変身』『悪魔ッ子』と1枚テロップのタイトルだった。監督から特に注文もなかったしね。それが『五郎とゴロー』から、ゴローがストップモーションでフレーム・インしたり、『1/8計画』で画面を8分割するマルチ画面になったり、オープニングに凝りだした」

「東宝映画で岡本喜八監督がアニメーションを使って、スマートなオープニングを作ったり、アメリカ映画でも『80日間世界一周』とか『ピンクパンサー』みたいなアニメをうまく使ったオープニングのしゃれた作品もあった。
 それで『地底超特急西へ』でも遊びだして、隕石が手前に飛び出してきて『宇宙指令M774』という文字になって、タイプライターの音をつけたり、ディレクターがサウンドエフェクトをつけてくれたのが助かった。『地底超特急西へ』のタイトルも、ブレーキ音があるから効いてるんだ」

「線画台で撮影してタイトルを作ってオプチカル合成してるわけで、アニメ処理で作れば大丈夫というのがわかってたからね。飯島監督がノってくれたから、タイトルでも一歩踏み込めた。ラストの終の文字の上を衛星を通過させているのも同じだよ」


2017年8月23日

第48回 金城哲夫がM1号と共演

 「地底超特急西へ」では運転士として俳優・奥村公延がいい味を出しているが、脚本家の金城哲夫が車掌役で共演して、奥村といっしょにちゃんとギャグの演技まで繰り広げている。

 飯島敏宏監督は1979年頃、こう語ってくれた。
「奥村さんの運転士、いいでしょう? あの人の味が僕は好きでね。他の作品でも使ってますよ。円谷一さんも使ってなかったっけ。TBSによく顔を出していたんです。金ちゃん(金城哲夫の愛称)は出たがりで、目も大きいし、けっこう演技も上手いんだ。やり過ぎかと思ったけど、奥村さんが上手いから、うまくはまったね」

「僕は東京の本郷の洋服屋の息子で、東大の三四郎池の周りや谷中で遊んだりした下町っ子なもんで、イタチとか、ああいう少年をつい描いちゃうんだけど、ギャグにしているつもりはなくて、サスペンスの中に子供を置いたら、シリアスなだけじゃないだろうと思うんだ」

「M1号のぬいぐるみは手が途中までしか上がらなくて、中に入る中村晴吉さんから〝手が動かないよ、これ〟と文句を言われたよ。
 あと、いなづま号がホームに入ってくるカットで、東京駅のそばの大丸デパートの地下街がオープンする前に借りて撮影したんだけど、合成の中野稔が〝あれっ、監督。前の翼でホームにいる人間の首を切っちゃいますよ〟と言って、1コマ1コマ、移動マスクで翼を消して合成してるか、ホームの床を足して人間と列車の距離を離したはず。それで翼を出すカットを後で作ってもらった。〝えらい手間がかかりましたよ〟と中野稔に言われたな、後で」
 と、飯島監督は笑っていた。

2017年8月22日

第47回 いなづま号の撮影方法

 南新宿にあった的場徹特技監督の事務所で、1979年頃「地底超特急西へ」のいなづま号の撮影方法を詳しく聞いた。

「全編でいなづま号がトンネルの中を走って行くでしょう。あれはステージを暗幕で覆って、トンネル内の壁のセットの両側に明かりを作り、2本のレールをステージの扉の外まで延ばして、奥へ行って、また奥から手前に走らせてというのを繰り返して撮影しただけ。横にレールを敷いて、その上でカメラを走らせて移動撮影のように撮ったカットもある。わざとブラして撮影したりもした。
 大半の撮影はノーマルスピードで、ハイスピード撮影は少しだけ。その方がスピード感が出るんだ。フィルムの使用量が少なくて済んで、市川利明プロデューサーから礼を言われたりしたよ」

 的場特技監督は、飯島演出の合成の上手さも褒めていた。
「暴走したいなづま号の先頭車輌が、子供たちの楽隊が演奏している前をシャーッと通り抜けるカットもちゃんとギャグになっているし、海岸線のところもしっかりロケ撮影に行ってた。列車の後ろの扉が開いて、イタチ少年がそこに立ったまま〝ない!〟というのも、合成カットとして見事で〝この監督、やるな〜〟と感心した」

 成田亨デザイナーのM1号の思い出はこうだった。
「最初、M1号はアメリカのSFイラストを参考にしようと考えたんだけど、人間よりちょっと知恵が足りないみたいだから猿っぽい感じでいいかと思ってああなった。
 ところが、高山さんの工房に行ったら、M1号の顔がなぜか的場さんに似ていて、〝ありゃ、これじゃあ的場1号だ〟とびっくり。〝意識されたんですか?〟と高山さんに聞いたら〝とんでもない、偶然です〟と言うので2人で笑ってしまった。そのことをまず思い出すね」

2017年8月21日

第46回 盛り込みすぎた怪獣ゴルゴス

 「ゴメスを倒せ!」の脚本を書き上げた飯島敏宏監督は、いよいよ『ウルトラQ』のディレクターに乗り出していく。

 『ウルトラQ』の前にフジテレビで製作する予定だった特撮TV映画『WOO(ウー)』で、富士五湖と富士山の樹海をロケハンしていた金城哲夫が、富士の樹海に住んでいるターザンのような少年タケルと、子供の時に彼と別れた姉、その少年ターザンを何とか人間社会に戻そうとする中年の警官、そして謎の岩石怪獣ゴルゴスのストーリーをまとめ上げた。この警官は飯島監督好みのキャラクターで、後に『帰ってきたウルトラマン』の「落日の決闘」で、飯島脚本の中に再登場する。

 飯島監督は『月曜日の男』でも、車が崖から落ちていくシーンを、ドラム状の背景を回して30センチくらいのミニチュアの車を使って撮ってしまうディレクターだったが、初の特撮テレビは少しとっちらかった雰囲気になってしまって、金城の脚本もドラマの中心を見失った感じで、この「富士山SOS」は凡作の印象に終わった。

 成田亨デザイナーは、岩石の怪獣というアイデアに沿って鋭利な岩状のゴルゴスのデザインを10枚近く描いたが、高山良策の造形は腹部がブヨブヨしていて、ゴルゴスに乗るタケルの人形も人形然としてしまって、狙った成果が挙げられなかった。
 飯島演出のテクニックとスマートさは、2本目の「地底超特急西へ」で発揮されることになる。

2017年8月20日

第45回 合成の新しさを求めた『ウルトラQ』

 「1/8計画」のオープニングの8分割するマルチ画面にはびっくりした。合成の中野稔さんはこう語る。
「マルチ画面自体はアメリカの20世紀FOX映画でたまに使っていて、円谷一さんにタイトルも8分の1なんだから、やってみませんかと言ったら〝そんなことができるのか!〟と言って、東京を象徴するいろいろな実景を撮ってきた。あれは実景だからマルチ画面が生きるんだ」

「日本でマルチ画面が一般的になるのは、1970年の日本万国博のパビリオンの大型スクリーンでやたら使ったからだよ。『1/8計画』は縮小センターのところでマットアートの未来的なセンターの建物や、由利子が縮んでいくところのコップみたいなガラスケース……あれは8ミリのアマチュア特撮コップの中に閉じ込められる人にわざと似せてやったり、縮小していくのも『ミクロの決死圏』じゃないけど、東宝でオヤジ(円谷英二)がやっていない手法を試してみた」

「特技監督の有川貞昌さんも、東宝だとオヤジの義弟の荒木秀三郎さんが合成撮影で『地球防衛軍』『美女と液体人間』『電送人間』と面白い撮影をやっていて、〝いつか自分も合成を生かす撮影をやってみたい〟と思っていたそうで、『ウルトラQ』ではちょっと面白い合成を考えて提案してきた。特撮の高野宏一キャメラマンと相談して新手を考えたんだ」

2017年8月19日

第44回 「1/8計画」の忘れられない思い出(その5)

 「ここの人はみんな親切だし、私は幸せよ」と笑いながら話す由利子。さっきまでは泣きながら万城目や一平を呼んでいたのに。
「何を言ってるんだ」と困惑する万城目に「もう帰って。死ぬ気で行ったのに、みんな酷い、ひどいわ」と由利子は部屋を出て行き、巨人の出現で逃げ惑う人々の渦に巻き込まれ、階段でつまづいてスローモーションで倒れ込む……。

 病院へスポーツカーでやってくる万城目と一平。
「大丈夫かな、由利ちゃん」
「駅の階段から落ちるなんて、彼女、疲れてるんだよ」
 2人の会話で、私は「えっ、ひょっとしてこれは駅で転んだ由利子の見た夢なのか」と思った。

 ベッドの上で目を覚ます由利子。同じ大きさの万城目と一平に気づくと……
「ああ、淳ちゃん、一平君。小さくなったのね。そうよね、みんなが小さくなれば、同じことなんだわ」と喜ぶ由利子。
「一平、医者を呼んでこい」と小さく言う万城目。そこにナレーションが流れる。
 かつて人類は身長18メートルの大きさがあったという。いつ、誰の手で、何によって今の大きさになったかは謎である、と。

 そして幕となるのだが、このラストはすごく印象に残っていて、中学1年生の時、再放送で脚本・金城哲夫というクレジットに気がついた。由利子の揺れる心の内面を、SFを使って200パーセント描いた脚本家の存在に気づいてしまったのだ。

2017年8月18日

第43回 「1/8計画」の忘れられない思い出(その4)

 東京のどこにでもある、車がいっぱいで渋滞している街並み。その交差点の右側から突然現れる巨大な万城目と一平。実景に2人を合成した抜群のカットだ。そこへあわてて駆けつける警官。
「もしもし、あなた方はこの街に入ってはいけないんですよ」
ここで万城目たちが由利子を探しにS13地区にやってきたことがわかった。下にいる8分の1人間たちを踏まないように歩く足を合成で見せる。

 「由利ちゃーん!」と呼びながら、ミニチュアセットのビル街を進んでいく万城目と一平。万城目を演じた佐原健二さんを取材したら「あのビル街のシーンは、円谷一さんが演技指導していて、わざと少しスローモーション風に歩いてくれと演出してましたよ。ミニチュアのビル街の中でも由利ちゃんとの芝居ですから」との話。

 部屋で泣いていた由利子はたまらず窓から叫ぶ。
「淳ちゃーん、一平くーん!」その由利子を見つける一平。
「由利ちゃん、誰がこんなひどいことを。ちくしょう」
「由利ちゃん、帰って一の谷博士に相談するんだ」と、窓から手を差し入れる万城目。

 合成で由利子の目の前に突き出される手。ギョッとする由利子。自分はもう違う人間になってしまったんだという由利子の気持ちが、子供心にもちゃんと伝わった。これこそ『ウルトラQ』の合成だった。

 「帰って、帰ってちょうだい。私はこの街の住人になるわ。」泣き声まじりの桜井浩子の演技。このラブストーリーにも思える由利子の揺れるエモーションに、小学生だった私の心は千々に乱れてしまっていた。

2017年8月17日

第42回 「1/8計画」の忘れられない思い出(その3)

 (CM開けてBパート)星川航空から出て行くタクシー。事務所の机の上に置かれているS13地区の箱。パタンと蓋が開くと、中から由利子が出てくる。机の上の写真立てには笑っている由利子の写真。しかし、それは黒いリボンが上に巻かれている。その横にある巨大な電話機は、由利子役の桜井浩子を8分の1人間に見せるために8倍のスケールで作られたドラマ班の美術セットだ。

 「まあ……ひどいわ(まるで私が死んだみたいに)」と写真立てを見て呟く由利子。そこへ万城目と一平の声が聞こえてきて、由利子はあわてて写真立ての後ろに隠れた。風船を手にして机に近づき、写真立ての由利子の写真を見る一平。写真立ての後ろにいる由利子の合成カットには、「うまいっ!」と子供心に合成の使い方に感心した。

 写真の由利子に語りかける一平。万城目は写真が見られず(由利子のことを思い出してつらいからだ)「もうその写真しまえよ」と言うと、「えっ、まだ1週間なのに」と抗議する一平。そこへ離島から病人を運ぶ依頼の電話が入り、万城目は出て行く。「由利ちゃん、先輩はあんなことを言ってるけど、君のことを」と言いかけた一平は、万城目の呼ぶ声で出て行く。

 「一平君……」と涙ぐみながら写真立ての裏から出てくる由利子。電話の受話器を必死に外して、毎日新報に電話した由利子だが、関デスクに「幽霊と話しているヒマはないんだ!」と切られてしまう。
 仕方なく、巨大な鉛筆を持って、机の上の便せんにメモを書く由利子。「さようなら ゆりこ」そして、東京上空を風船を何個も付けたS13地区の箱が飛んでいく。宮内国郎作曲の哀愁のある音楽がBGMとして流れ続ける。
 いったい、このストーリーはどうなるのだろうと茫然とテレビを見つめていた。

2017年8月16日

第41回 「1/8計画」の忘れられない思い出(その2)

 ベッドの上で目を覚ます由利子。胸にはナンバープレートが付いている。民生委員の人間が現れ、巨大なカメラを持ってくる看護婦。「あたしのカメラがなぜ、こんなに大きく……」と驚く由利子。「カメラじゃなくて、あなたが小さくなったのよ」と民生委員。

 その時、上の方から声がかかって見上げると……。
 巨大な人間が部屋の一角にある小さな箱の中を覗いている。そこは役所の一室で、隅に作られた8分の1人間の部屋だった。由利子は正式な手続きを経ないで、S13地区に入国したため、捜査員の手で留置されることになる。椅子の入った箱が下ろされ、由利子はその椅子に座って箱ごと留置場に運ばれる。

 留置場にいる太った男(悪事を働いたのではなく、身体が大きすぎて縮小装置に入れないので、大きな装置ができるのを待っているというのが笑える)が由利子の話を聞いて、腰のベルトを外して箱を窓から外の川に下ろし、逃がしてくれる。川の水が箱の中に入ってきて、あわてて椅子の上で身体をこごませる由利子と、細かな芝居が続いて驚かされた。

 そして子供たちが川を流れる箱を見つけて拾い上げ、「S13地区って何だろう?」と話していると、通りかかった2人のシスター。「まあ、これは1/8計画に関係しているに違いないわ」と気づき、箱を持ってタクシーに乗る。
 「S13地区へ」「違います、星川航空へ行って欲しいんです」箱の中からの声に、シスターたちは箱を開けて驚く。「まあ、可愛いらしい」箱の中の椅子に座っている由利子の合成シーン。「とっても会いたい人がいるんです」と由利子。

 このヒロインのひとりぼっち感はどうだ、と思った。いつも気の強い、活発な女の子である由利子の姿はなかった。ただ万城目に会いたいと願う女性がそこにいたのだ。

2017年8月15日

第40回 「1/8計画」の忘れられない思い出(その1)

 『ウルトラQ』の中で、見ていて心が身体から離れて、そのストーリーの中にさまよい、終わると目が覚めたように日常に帰還した感じがしたのは「1/8計画」だった。そこには怪獣が登場しない。しかし、想像を絶するストーリーが急速に展開していく。

 由利子が渋谷駅で混雑する階段でつまづいて……
「世界一の人口密度を持つこの街で、ある戦いが始まろうとしています。これから30分、あなたの目はあなたの身体を離れて、この空間の中に入っていくのです」と、石坂浩二のナレーション。

 万城目、一平、由利子がドライブ中、「S計画募集中」という建物に人々が殺到している。新聞社のキャメラマンとして「何だろう?」と興味を感じた由利子は、万城目たち2人を車に残して、「ちょっと待ってて」と建物の中へ。なんとそれは、人間を8分の1に縮小して、税金もタダなら住むところも確保してくれる国の計画だとわかってくる。

 「あなたもどうですか?」「いやよ。私は大きくなりたい方なんだから」と断った由利子は人並みに押され「まあ、こちらへ」と8分の1計画に入れられてしまう。
 椅子の上で光線を浴びて、みるみる縮んでいく由利子。この非情な合成イメージが圧巻で、由利子の運命はどうなるのかと息を呑んでしまった。

2017年8月14日

第39回 「カネゴンの繭」の異様さ

 円谷英二社長は『ウルトラQ』の製作がスタートした時に決めていた大原則があった。
「作品の決定権は、本編のドラマ監督にある。特撮班は、ドラマ班の監督の指示に従うこと」
 特撮マンの会社なのに、ドラマの中で特撮が生きるべきであって、特撮ばかりが目立つのは本流ではないという主張だった。

 飯島敏宏監督から何度もその話を聞いた。
「だから、実相寺(昭雄)が『ウルトラマン』で特撮カットをどんどん切っていっても、特撮班は文句を言えなかった。もっとも実相寺の方も撮りすぎていて、本編も捨ててたけどね。これは円谷さんが決めたことだって、一さんも言ってた。『ウルトラQ』の時に、その話は聞いていたからね」

 中川晴之助監督に、なぜ「カネゴンの繭」には万城目や由利子が出ていないんですかと聞いた時の答え。
「気がついたら、万城目たちが出るシーンがなかった。脚本の山田正弘さんがどうするって言うから、まあ出なくてもいいんじゃないか、出ない方がいい話になるし、出さなくていいよと僕が言ったんだと思う」

「『鳥を見た』のエンディングもそうで、その作品を生かす形にしたかった。カネゴンの回は、フィルムを回しすぎて〝フィルム食いのハルゴン〟って嫌みを言われてね(笑)。造成地の景色が撮影中にどんどん変わっていって、スタッフに呆れられた作品だよ」

2017年8月13日

第38回 成田亨&高山良策

 高山良策夫人の利子さんには、1990年頃、半年に1回は顔を出して、よく成田亨さんの思い出を聞いた。

「成田さんは、怪獣の発注とチェックと称して、よく作業場の高山の所へ来て、美術の話とかしていましたね。円谷プロにいると美術監督だから、いろいろな仕事を持って来られて落ち着かないんだとおっしゃっていました。
 高山が集めた世界の仮面写真集とかパラパラめくって、溜まっていた高山の絵を見て時間を潰していたようです。映画じゃなく、美術の話ができたから気楽だったのかしら」

 高山良策は戦前、日本のシュールレアリズムの巨匠だった福沢一郎の研究所に通い、池袋モンパルナスの画家のメンバーだった。同じシュールレアリズムの彫刻家である成田亨との間には、言葉を越えて互いを認める空気があったのである。

 カネゴンの製作には、胸のレジスターやスリッパのような脚についているランプと、いつもの怪獣には使わないパーツがあったが、涙を流す目(つぶらでカワイイ)、モーターを仕込んで左右に回転する頭部などは、機電(ギミック)担当の倉方茂雄が利子さんと共に走り回って材料を集めた。

 メタリックだったボディも、成田・高山の2人が話し合って、牛革をつぎはぎしたような皮膚感のある不思議な外見となり、空前の怪獣カネゴンの造形が完成していった。

2017年8月12日

第37回 エスカレートし続けるカネゴン

 「カネゴンの繭」は、脚本の山田正弘と中川晴之助監督、成田亨デザイナー、的場徹特技監督のブレーン・ストーミングから始まった。

 「子供たちは何かあるとお金、お金って言いませんか?」と山田正弘。「そうそう、金を食べる怪獣みたいだよな」と中川監督。「お金を食べる怪獣に子供が変身するとか」と的場特技監督。「頭がガマ口で、口にチャックが付いている」と成田デザイナー。
 「こいつは面白い」と、次々にみんなからアイデアが出てくる。体は銅貨の色、尻尾にはコインと同じギザギザがあって、胸にはレジスターのメーターが付いて、食べたお金がカウントされていく……こんな楽しい打ち合わせは初めてだった。

 成田亨デザイナーに「怪獣のデザインに、どのくらい時間をかけたんですか?」と聞いたのは、多摩川近くの自宅だった。成田さんは、こう答えてくれた。
「円谷プロに行くと、美術のセット・デザインやステージのチェック、金城君との打ち合わせと続いて時間がなくてね。朝飯を食べた朝8時から出勤までの30分くらいしか描く時間がなくて、この机でスケッチブックに描いていた」

「ああ、そうそう。カネゴンを描いていた時、始めはもっと脚が長かったんだよ。その頃、ちょうど奥さんが妊娠しててね。割烹着を着て大きなお腹でチョコチョコと台所を歩いていた。それを見たら、足が短いのも可愛いなと思って、お腹もポコンと出してみた。小さい子供って、お腹が出てるでしょ。カネゴンも生まれたばかりで、赤ちゃんみたいでいいんじゃないかと思ったんだ」

2017年8月11日

第36回 悪夢からやってくるカネゴン

 『ウルトラQ』にとって、ガラモン以上に重要なのがカネゴンであった。

 「悪魔ッ子」がクラスで「怖い」「怖い」と子供が言い合ったのは前に書いたが、カネゴンの繭が金男の部屋の中央で糸を吹きながら浮いていて、「でっかくなった、でっかくなった、でっかくなったぞ!」と喜ぶ金男。その繭の割れ目からジャラジャラとこぼれるコイン。「キャハッ」とあふれるコインを手に、狂喜する金男。すると、何かに手を引っぱられて、繭の中に引きずり込まれる金男。いきなり壁が溶けて、アブストラクトな模様や地平線、アニメのラインが走り、悪夢のイメージの連続となる。

 この連続する特撮カットは、成田亨特撮美術監督が絵コンテを描き、アニメ処理を加えて、合成の中野稔技師が完成させた。そして、気味の悪いニワトリの声で、繭の割れ目からジャジャーンと現れるカネゴン……。

 山田正弘脚本、中川晴之助監督の優れている点は、まさに悪夢から生まれた怪獣にしているところで、一度でもお小遣いがもっと欲しいと思ったことがある少年には「自分もカネゴンになってしまうかもしれない」という思いを否定できない。

 理屈押しでないジェットコースターのようなストーリーで科学的根拠はゼロ。物語自体がシュールレアリズムで、正統派SFを鼻で笑う、どす黒いファンタジーであった。「カネゴンの繭」は怖かったと言えないくらい、怖いと感じた少年は多いのじゃないのか?

2017年8月10日

第35回 未知の生物というウルトラ怪獣

 「ガラモンを作ったことでウルトラ怪獣のラインは見えてきたと思った」と成田亨デザイナーは語る。

 ガラモンをよく見ると、首がないことに気づく。ガラモンが方向を変える時は、チョコチョコ足を動かして体全体の向きを変える。何だか小さな子供の動きを見ているようで、そこにある可愛らしさが出ているのだ。魚のコチからの発想なのか(魚には首がない)、見ようによっては歩いている魚のような感じもあって、まさにどこにもいない生命体だった。

 ロボットと言っているのに、動きを止める時、目蓋を閉じて、ガクッと開いた口からドローッと液体が流れる。機械生命体のような感じで、まさに未知の存在そのものだった。

 シュールレアリズムの前衛彫刻家だった成田亨デザイナーの真骨頂は、チルソナイト製の電子頭脳で、シンメトリーではないむき出しの金属結晶みたいな断面の形をしていて、ガラモンを操るのにふさわしい電子頭脳だった。

 電子頭脳から発信する誘導電波を遮断するだけで、ガラモン自体は壊せないというストーリーも、未知の宇宙文明の底知れぬ力を実感させてくれて、「こういう終わらないストーリーのやり方もあるのか!?」と、ラストの不気味な余韻に金城哲夫のスマートな語り方を感じた。
 「ガラダマ」は『ウルトラQ』の独特の味わいを持つ代表作の一本だと思う。



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