2017年9月16日

第71回 「あけてくれ!」の衝撃

 「あけてくれ!」がなぜ、再放送で初めて電波に乗ったのか、長い間の疑問だった。1973年頃、円谷プロに行く機会があり、竹内博さんに会って「あれは『ウルトラマン前夜祭』を放送するため、オクラになったんだ」と言われて「へーっ」と思いながら、まだ納得できないでいた。
 1990年代になって、朝日ソノラマのファンタスティック・コレクション『ウルトラQ』で、竹内博さんに栫井巍プロデューサーの取材を依頼され、TBS1階の喫茶部で栫井さんにお話を聞いて、初めて事情が判明した。

「1965年12月には、『ウルトラQ』すべての撮影が終わって、どういう放送順で行くか、全話をカードにして、宇宙怪獣、山の怪獣、海の怪獣、怪奇、ファンタジーと分類して、同じような話が続かないように何度も並べ替えて考えた。怪獣の出ない『変身』や『悪魔ッ子』『あけてくれ!』は後ろに回して、『206便消滅す』を最終回にした。
 本当は第1回は『宇宙からの贈りもの』で行くつもりだったんだけど、円谷一君が飯島敏宏君の脚本で撮った『ゴメスを倒せ!』はTBSのディレクター2人の作品だから1話にしてくれと言ってきて、僕的には怪獣が2匹出てきて派手でいいかと、ギリギリで変更した。
 『あけてくれ!』は、『ウルトラマン』の撮影が遅れていて、何とか間に合わせてくれと時間稼ぎの苦肉の策で『ウルトラマン前夜祭』を入れて、そのために放送しなかったんです。再放送でやればいいと思ったし、新番組の『ウルトラマン』を宣伝する方が大事でしたからね」
 と、栫井プロデューサーは話してくれた(注)

 1970年代末に、朝日ソノラマのファンタスティック・コレクションが出て放送リストが公開されるまで、怪獣ファンや特撮ファンが集まると『ウルトラQ』の「あけてくれ!」って知ってるかい?と話すのが常だった。
 『ウルトラQ』の印象が今でも強いのは、そんな幻の作品が、まるでトゲのようにシリーズに突き刺さっているからなのかもしれない。

注:後の栫井氏や関係者の証言、当時の資料等では、怪獣の出ない「あけてくれ!」が難解な内容でもあったので本放送から外し、番宣番組を挟んで予定通り「ウルトラマン」の放送がスタートしたとある。

2017年9月15日

第70回 もう1本の『ウルトラQ』

 『ウルトラQ』の放送が終わるらしいという情報は、「少年マガジン」の新番組『ウルトラマン』の告知で初めて知ったのだと思う。テレビまんが(アニメーション)の『鉄腕アトム』や『鉄人28号』、実写ヒーロー物の『月光仮面』『七色仮面』『隠密剣士』と、1年以上続く番組が多かったから、7ヶ月くらいで、これだけ面白い番組が終わってしまうということに驚くと同時に、がっかりしてしまった。

 そして『ウルトラマン前夜祭』を見て、「なんのこっちゃ」という感じで、新しく始まる番組の内容が想像つかず、茫然と見ていた記憶があるのだが、終わったはずの『ウルトラQ』に放送されなかった回があるとは思いも寄らなかった。

 『ウルトラQ』の再放送は1年後くらいか、「ガラダマ」からスタートして、人気怪獣の出る回から再放送していく変わったパターンだったが、1話読み切り形式のシリーズなので、特に違和感を持たずに見続けていった。
 ところが、最終回近くになったある日、テレビの前に座っていると、見たこともない『ウルトラQ』が始まっていた。「あけてくれ!」(脚本・小山内美江子、監督・円谷一)で、怪獣が出ない、時間と空間を超える四次元列車がからむ人間蒸発のSFストーリーで、その時、中学1年生だった私には13年生きてきて、一番驚いた体験だった。

2017年9月14日

第69回 セミ人間の人間タイプのイメージは?

 野長瀬三摩地監督はガラモンに東京アタックをかけさせながら、操っている宇宙人(セミ人間)はロード・ムービーのようにトラックに乗って北上しているというストーリー設計を作らせた。

「セミ人間は、はじめ人間の姿をしていて、科学研究センターからチルソナイト製の電子頭脳を深夜に盗み出す。のっぺりとした顔立ちの男で、丸山明宏(現在の美輪明宏)みたいな中性的で少年のような男優を、演技事務に頼んで探してもらってキャスティングした。そのセミ人間の男を乗せるトラックの運転手は、男くさい元新東宝の沼田曜一にして、対比を狙った」
 と、野長瀬監督は配役にもこだわった。

 電波監視所の主任役の平田昭彦は、東宝の助監督時代に何度も仕事をしていて、セリフのメリハリにも気を配った。万城目や一平、由利子、主任の乗るヘリコプターがトラックを追って、電子頭脳を取り戻そうとするサスペンスをスピード感たっぷりに描いてみせた。ドラマが特撮に負けていない。

 ガラモンは胸のマークを変えて3体に見せ、手前に1体、奥に1体と合成ラインもナチュラルで、合成には見えないほどだった。
 実際に空飛ぶ円盤を目撃したこともあるUFOマニアの的場徹特技監督は、湖から出現して空中に浮かぶUFOを熱心に撮影。湖のミニチュア・セットもいい仕上がりで、侵略SFのハードな雰囲気を実感させてくれた。


2017年9月13日

第68回 侵略テーマのモンスターSF

 信州を舞台に牧歌的なムードを持っていた「ガラダマ」と違って、「ガラモンの逆襲」は宇宙人が地球を狙う侵略ストーリーのタッチを出してみようと、野長瀬三摩地監督は脚本の金城哲夫と打ち合わせを重ねた。

 中川晴之助監督の「カネゴンの繭」で、1体のカネゴンを合成で2体に見せるやり方を見て、ガラモンも3体くらい出そうと野長瀬監督は要求する。そして、ガラモンを操っている宇宙人をどう描くか?
 金城哲夫から、ラストで任務に失敗すると仲間にすぐ殺されてしまう非情な宇宙人というアイデアが出て、野長瀬監督は「昆虫型の宇宙人にしよう」とアドバイスした。
「カマキリのメスは交尾が終わるとオスを食べてしまう。昆虫は子供も親しみがあるし、それで行こう」と野長瀬監督。

 どの昆虫にするかと金城は考えるが、沖縄や九州の南方で夏に鳴くクマゼミはどうだろうと思いついた。本州に来て、アブラゼミやミンミンゼミのおとなしい鳴き声が金城には不思議だったのだ。
 成田亨デザイナーは、まるで『風の又三郎』のガラスのマントみたいにビニールの洋服をまとわせ、セミの顔をしたヒューマノイド型の宇宙人を描き上げた。

 「摩訶不思議な仕掛けを頼むよ」と的場徹特技監督に頼まれ、機電の倉方茂雄はドーム型の目の中に、光が回っているプラネタリウムのような光源を入れた抜群のギミックを両眼に仕込んで、成田デザイナーを喜ばせた。

2017年9月12日

第67回 野長瀬監督の入念な絵コンテ検討

 成城の西の喜多見市にある野長瀬邸で、1978年頃、「東京氷河期」の台本を見せてもらった。あの作品を見た誰もが覚えているカットの絵コンテが、台本の上3分の1のスペースに描き込まれていた。

・新聞社の窓の向こうの空をかすめる黒煙
・バーンと手前に吹き飛ぶガラス片
・割れたガラスと鉄枠だけ残った窓の向こうに立つペギラの上半身
  窓越しに見つめる由利子「ペギラだわ」。すると机の下に潜った関デスク「ペギラだって?」

 そのまま映像と同じコンテが描かれていた。さらに後ろの方を見ていくと、
・空中を飛ぶセスナ
・氷に包まれた東京に立つペギラ
・左半分にペギラの上半身、右から突っ込むセスナ
 と、これまた画面で見た映像が描いてあった。

 旋回するセスナ、雲海から突き抜けてくるセスナのカットには、円谷英二が撮影した部分もあり、円谷の編集テクニックが生かされていた。
 「随分カットも捨てて、『東京氷河期』はドラマ部分に工夫を重ねた作品で、思い出もいろいろあるね」と野長瀬三摩地監督は回想していた。

2017年9月11日

第66回 合成満載の「東京氷河期」

 『ウルトラQ』の怪獣で2回登場したのがペギラとガラモンだ。高山良策が製作したぬいぐるみスーツの造形が素晴らしくて、もう1本撮ろうとなったのは当然で、山田正弘、金城哲夫という『ウルトラQ』でも双璧の脚本家が、それぞれ東京アタック・ストーリーを練り上げた。

 まだマットアートという特撮の技法を知らなかったから、氷づけになった羽田空港の氷柱が下がったジェット旅客機や空港ターミナルが、写真を加工したものだとは、まるで気がつきもしなかった。 
 暖かくなり始めた南極から北極へ引っ越すために移動したペギラが、途中で立ち寄ったために、東京が氷河の世界になってしまうというストーリーは、小学6年生だった子供にもわかりやすく、自衛隊のジェット機の攻撃にもビクともしないのに、苦手なペギミンHで退散していくというラストも、妙な説得力があった。

 元ゼロ戦乗りのパイロットの父親が出稼ぎで東京へ出てきて行方不明になり、探しにきた少年と知り合う由利子。星川航空に現れる父親……と、よくこの話がペギラと結びつけられたと思うような展開で、ペギラの足下を通ろうとした少年がペギラの体重で道路にできた陥没に落ちてしまうシーンを撮るため、蛇腹式の地面をわざわざ作り、板を1枚1枚落としていって地面の下へすべっていくようにしたり、回転するカメラで空中でクルリと一回転する車の内部を撮ったり、野長瀬三摩地監督のドラマ班の映像がとにかく楽しめる作品だった。

2017年9月10日

第65回 人間のすぐ横を通り過ぎる怪獣パゴス

 竹の花が咲く時、虹の根元で見つかる虹の卵に願いをかけると、どんな願いでも叶うという伝説をおばあちゃんから聞いて、ピー子を隊長とする子供たちは一致団結する。
「虹の卵を探して、おばあさんの足を治してもらうのよ」「オーッ」

 飯島敏宏監督は1979年頃、こう語った。
「山田正弘さんの描く子供たちが、どこか山の手の子供というか、おとなしくてね。ちょっと違うなと思って、ピー子と元気な子供たちにしたくて、ブームだった忍者のポーズを取り入れたり、指を口に入れてポンと鳴らしたり、かなり変えてしまったんだ」

「僕は怪獣を合成するのに、いつも画面の奥の方にしかいないのが気に入らなくて、特技監督の有川貞昌さんや合成の中野稔に話して、ドラマ班の撮影の内海正治さんにも注文して、隠れているピー子の隣りをパゴスが通過していく合成シーンをわざと作ったり、パゴスのやられ方も普通ではなくバラバラになるとか、工夫してくれと頼んだ。空の虹も、普通の虹じゃない感じにしてと無理ばかり言ってた」

「パゴスはうまくいったという印象があった。由利子役の桜井浩子がいきなりショートカットになったので、内海キャメラマンにきれいに撮って下さいと頼んでみたり、特撮って面白いじゃないかと思えてきて、ケムール人の回とこのパゴスの話は、意外と気に入ってるんだ」

2017年9月9日

第64回 怪獣パゴスのダイナミックさ

 「虹の卵」(作・山田正弘)を初めてTVで見た時、ウラニウムの球体容器を運ぶトラックが崖のところに差しかかり、崩れ始めた岩壁からパゴスが現れ、運転手が逃げていくシーンの合成のラインがあまりに自然で、いきなり怪獣が出現する導入部に目の覚めるような驚きがあった。

 あの特撮セットは、下からのアオリ映像を撮影するため、東宝美術センター(後の東宝ビルト)のステージの天井近くまで山と崖を作ってあって、崖下からカメラは出現してくるパゴスを撮影している。

 飯島敏宏監督は、パゴスを演じる中島春雄に挨拶するため、控え室を訪れた。
「中島春雄さんは控え室の大鏡の前で、四股を踏むみたいに足を片方ずつ上げて踏ん張って〝なんでも注文してよ。どんなことだって、やってやるから〟と笑って挨拶してくれて、オオーッと思ったよ」と飯島監督。

 パゴスは中島春雄用にオーダーメイドで作られた映画用のバラゴンのぬいぐるみスーツを改造した物で、高山良策が成田亨デザインを造形した頭部以外は、映画のままであった。最も動きやすいスーツだったバラゴンは、その後も『ウルトラマン』のネロンガ、ガボラとウルトラシリーズのストロング級の怪獣として、長く活躍していくことになる。

 全身を震わすスーツ自体の動きと、中島春雄の演技のオリジナルの動きがパゴスのキャラクターを結晶化させていた。

2017年9月8日

第63回 満田監督の演出デビュー

 「マンモスフラワー」からシリーズ助監督として参加していた満田(みつた・かずほ、名前は禾に斉)さんに1978年頃、監督デビューの話を聞いた。満田監督はTBSの『いまに見ておれ』(青島幸男主演のコメディ)で円谷一ディレクターのアシスタントに付いていて、脚本の金城哲夫とも、その頃からのつき合いであった。

「2本同時に撮影していたから、『燃えろ栄光』」と『宇宙指令M774』」の両方がデビュー作になった。1本は飯島敏宏さん(千束北男名義)の脚本、もう1本は上原正三で、同じような演出にならないように、いろいろ工夫した。
 『燃えろ栄光』はボクシングの話だったので、合成の中野稔に頼んでパンチ型のワイプを使ったり、『M774』の方では喫茶店の入り口と異世界をつないだりして〝変なこと考えるな〜〟と中野さんに苦労をさせてしまったりもした」

 成田亨デザイナーはこの2作の怪獣について、
「ピーターはうまくいかなかった。造形も肌の仕上がりが良くなかったと思う。ラストの巨大化も唐突な感じで、セットもあまり出来が良くなかった。ボスタングはとにかく動かなくて、怪獣を作ることの難しさばかり感じていた」
 と回想する。

「助監督の頃に知り合っていた工藤堅太郎とは〝監督になったら主役で呼ぶよ〟と約束していて、『燃えろ栄光』のゲスト主役をやってもらった。いい役者で、後で『ミラーマン』にレギュラー出演して全編で熱演してくれたよ」
 と満田監督は話していた。

2017年9月7日

第62回 息をのむ傑作「2020年の挑戦」(その5)

 「2020年の挑戦」は、オープニングのソラリゼーション風のネガ画面のザラッとしたビジュアルの導入部にびっくりした。

 前半で主人公の万城目淳が消滅し、由利子にもケムール人の魔手が迫り、同僚のカメラマンが現像中に由利子の目の前で消えてしまうショック演出。老刑事(柳谷寛)や一平、航空自衛隊の天野二佐(小林昭二)の3人で万城目を助けられるのか!?という、まったく予想のつかない展開で、最高のサスペンスとSFタッチの中にギャグが入ってくる飯島演出のスマートさに感心した。

 ケムール人と交信した科学者の小説や日記をうまく使ってケムール人の設定を紹介していて、金城哲夫の脚本の構成と飯島演出のビジュアル・インパクトが見事なSFストーリーを盛り上げた。

 合成をうまく使っていく有川貞昌特技監督のメリハリのある特撮演出もドラマ部分、特撮シーン共に効果を上げていて、「虹の卵」もそうなのだが、『ウルトラQ』のドラマ&特撮のバランスの良いアンサンブルはこの2本で完成ともいうべきレベルに達していた。

 『ウルトラQ』は「宇宙からの贈りもの」「バルンガ」と、ラストシーンで終わらないストーリーの不思議なムードが印象に残っていたのだが、「2020年の挑戦」のラストの合成まで使った老刑事の運命には仰天した。最後の10秒まで、見ている人を楽しませようというテレビマンのこだわり、工夫で「これこそテレビドラマの面白さ」というラストだった。

2017年9月6日

第61回 息をのむ傑作「2020年の挑戦」(その4)

 ケムール人がパトカーの前を走っていく有名な合成シーンについて、撮影に立ち会った合成の中野稔さんはこう振り返る。
「あのシーンの背景は、スコッチバック・プロセスのオレンジのスクリーンで、ケムール人役の古谷敏さんに撮影の高野宏一キャメラマンが〝もっと左右に思い切り飛んで走ってくれ〟と指示を出しながら撮影していた。バックのパトカーの方も高野さんが撮っていたから、パトカーとケムール人の動きもちゃんと計算していて、合成もうまくいったと思う」

 飯島演出のすごいところは、柳谷寛が演じる刑事に出会ったケムール人が逃げていくシーンで、ケムール人に大股で異様な走り方をさせて奥へ走らせていることで、普通の歩き方・走り方ではないはずだというディレクターのこだわりが見える。後のバルタン星人やガッツ星人もそうだが、飯島監督にとって宇宙人というのは、歩くだけでも並みのヤツとは違うのだ。

 飯島監督は1979年頃、木下プロでケムール人を撮った時の思い出をこう話してくれた。
「万城目からケムール人に変身するシーンを考えていたら、万城目役の佐原健二さんが〝監督、僕、耳を動かせるんですよ〟と、耳をピクピクさせるのを見せてくれて、さっそくケムール人へ変身するシーンのきっかけに使わせてもらった。
 自衛官役の小林昭二さんは新劇出身の俳優さんで、セリフがはっきりしていて良かった。この時の印象で『ウルトラマン』のムラマツ隊長の役をお願いすることにした。笑顔も良くて、この回では彼に助けられたよね」

2017年9月5日

第60回 息をのむ傑作「2020年の挑戦」(その3)

 成田亨デザイナーはケムール人について、ガラモン、カネゴンと並んで「これこそウルトラ怪獣だ」と言い切っていた。
「ケムール人は、脚本に前後左右いつも見ることができる、前にも後ろにも目があると書いてあった。エジプトのピラミッドの壁画に描いてあるような、正面と横のポーズを1体にまとめたシンクロナイゼーションという絵の描き方があって、それを使って全体をまとめ上げた」

「全体に上に伸ばしてあって、7頭身の俳優の古谷敏さんが入ってくれて、ウェットスーツのボディが人間のシルエットを壊していて、これこそもう一つの人間の形だと思った。高山良策さんがボアみたいな毛を胸に付けたのも良かった。あれでどうやって物を掴むんだという細長い指もボディとマッチしていて、まさにウルトラが目指していた宇宙人ができたと思った」

 飯島敏宏監督が『ウルトラセブン』のガッツ星人について語ったのを聞いて、ハッとしたことがある。
「ガッツ星人は頭がでかいでしょ。僕は未来のかしこい宇宙人というと、つい頭が大きくなるだろうと思っちゃうんだ。本当はガッツ星人は頭が透明で、脳がゆらゆら揺れているのが見えるイメージで、それを美術の池谷仙克がピーコック模様で表現したんだ」

 ケムール人の頭の白い部分は、頭が大きくなりすぎて表皮が破れ、頭蓋骨が見えている裂け目なんじゃないか!? 目も内圧で飛び出しているのかも……と思えてしまったのだ。

2017年9月4日

第59回 息をのむ傑作「2020年の挑戦」(その2)

 『ウルトラQ』の合成をすべて担当した中野稔さんは「2020年の挑戦」についてこう語ってくれた。
「飯島さんに、円谷のオヤジが東宝でやった『美女と液体人間』の液体人間のようなものを撮りませんか、もっとうまく見せられますよって言ってたんだ」

 飯島敏宏監督は内海正治キャメラマンのうまさを指摘する。
「僕は『月曜日の男』でも、車のシーンやアクションはロケーションで16ミリフィルムで撮影して、スタジオで撮ったドラマにインサートしていたんだけど、映画会社のキャメラマン助手の人が多くて物足りなかった。
 内海正治キャメラマンは、東宝で何作品も劇場映画のキャメラを回していて、プールの飛び込み台から飛び込んで途中で消えるカットも、2回同じ動きでキャメラを動かしてピタリと合っていた。〝さすがだ〟とびっくりした」

「ミルクを飲もうとした男が消えるのも、合成の中野稔がコップが素通しだとマズいのでミルクを入れて、コップを持つポーズもこの形でと撮影現場に立ち会っている。
 内海さんはあのカットでも普通と同じなんだ。頼もしかった。ゴーカートの女の子が消えるカットも、うまくいくかなと思っていた。電話ボックスの中の由利子に危機が迫るカットは、一平と電話させながら、本の表紙の写真の女と由利ちゃんをそっくりにして、ダブルサスペンスにしているんだ」

「上からケムール人の使う電送液体が降ってくる……あそこもうまくいった。あの液体の動きや合成もうまくて、消える時、ネガ状になるのは中野稔のアイデア。スーッと端から消えていくのも不気味で、オーバーラップにしなかったのが、ちょっと非情な感じが出て正解だった」

2017年9月3日

第58回 息をのむ傑作「2020年の挑戦」(その1)

 『ウルトラQ』には、先行する目標となるテレビ番組があった。ロッド・サーリングが製作・脚本の中心となったSF、ファンタジーの『ミステリーゾーン』。そして1963年の1時間のSFドラマ『アウターリミッツ』の2本だ。

 特に『アウターリミッツ』は、宇宙時代に人類が出会う宇宙文明と科学が生み出す恐怖を、モンスターを前面に出して、合成も革命的で、「こうやってモンスターと合成をストーリーに組み込むのか!」と金城哲夫や中野稔を唸らせた。

 梶田興治監督は、こう当時の気分を語ってくれた。
「円谷英二さんと、金がいくらかかってもいいから、社会に何かを訴える作品を作ろうとよく話し合いました。金城哲夫君とも『アウターリミッツ』の話は良く出て、あのうまさは参考になりますねと話していた。『ミステリーゾーン』のロッド・サーリングのセリフの切れ味、ナレーションのうまさに金城君は憧れていましたからね」

 「宇宙からの贈りもの」は、宇宙人とのファースト・コンタクトだったが、宇宙文明の知的宇宙人は姿を見せない。『アウターリミッツ』の宇宙時代という新イメージに対抗しようと、金城哲夫は「2020年の挑戦」と「ガラモンの逆襲」の2本の脚本を書き上げる。そして、この2本をTBSの飯島敏宏ディレクター、東宝の野長瀬三摩地監督という『ウルトラQ』後半のエースともいうべき演出家がビジュアル化していくことになる。

2017年9月2日

第57回 成長していくゴーガの面白さ

 円谷プロに集ったディレクターと特技監督の中で、野長瀬三摩地監督と的場徹特技監督は共に40代。野長瀬監督は昭和20年4月東宝撮影所に入社し、的場特技監督は戦前から大映のキャメラマンで、20年間、東宝と大映東京撮影所で日本映画の黄金時代に働いてきた人間だ。若いスタッフしかいなかった円谷プロで、テレビ・フィルムに甘んじて仕事をする映画マンではなかったのだ。

 的場特技監督はゴーガの成長を描くため、いくつものゴーガを高山良策に作らせ、ゴーガが貝殻の端をドリルのように回転させてビルの床を破ったり、目から溶解光線を出して自衛隊機を撃墜したり、手強い能力をもつ怪物に仕上げ、かつてアランカ帝国を滅ぼした伝説のモンスターをファンタスティックに演出した(ギャングの目を逃れて、像の後ろに小さなゴーガが隠れるなど、芸が細かい!)。

 密輸品を追う秘密捜査官を演じた女優・田原久子は、妖艶なチャイナドレスを身にまとい、スレンダーな美少女より豊満なヴァンプ系の女優を好んだ野長瀬監督の作品らしいキャラクターで、「いつか使ってみたい」女優の起用だった。

 特撮と合成をうまく使えば、日本のテレビ映画でもスパイやスナイパー、誘拐のサスペンスと、いくらでもドラマのスケールを拡げられることを実証したアクション作品だった。

2017年9月1日

第56回 「ゴーガの像」の鮮やかな特撮

 「ゴーガの像」について話す野長瀬三摩地監督の顔は今も忘れられない。
「『ゴーガの像』はスパイ映画のタッチを出したくて、密輸団のアジトを描くのに、自動扉が閉まったら、手前で芝居を続けながら扉の向こうのセットを壊して、地下の美術品のコレクター・ルームのセットに組み直して、扉が開くとその部屋に出るという、部屋全体がエレベーターになっているという仕掛けを、ワンカットで見せようとやってみた」

 野長瀬監督は湯水のように「ゴーガの像」にビジュアル的なアイデアを注ぎ込んでいて、ジープに運転する万城目や一平を乗せて、バズーカ砲を持った自衛隊員が構えながらゴーガに近づいていく場面のかっこよさ。『ウルトラQ』のベスト級の合成のサスペンスだった。

 「怪獣と戦う人間の英知と勇気を見せたい」という野長瀬監督の主張は、「ペギラが来た!」「東京氷河期」「バルンガ」「ゴーガの像」「ガラモンの逆襲」と、どの作品でもちゃんとストーリーの中で一貫している。そして、科学者や自衛隊員以外の人間と対決させたいという狙いは、『ウルトラQ』ならではのSFマインドを見せてくれた。

 圧巻は、ゴーガの像をのぞき込んだギャングの部下(古谷敏)の顔面に、像の目から溶解光線が発射されて顔をなめ回し(古谷敏はバッチリ両目を開いている)「ウワーッ」と顔を押さえて絶命する合成シーンで、野長瀬監督のダークでハードな演出は、今の目で見てもショッキングな映像となった。

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