2017年10月19日

EX18 特撮セットのない特撮美術

 『ウルトラQ』と題名が決まり、制作がスタートしたのが制作第4話の「206便消滅す」だった。脚本の山浦弘靖とそこに怪獣を書き足した金城哲夫の2人は、東京上空に存在する4次元ゾーンを考えた時、太陽光線が注いでいないのだから、極寒の冷気に包まれた空間と考えていった。

 怪獣が出るので、東宝特殊技術課の渡辺明美術監督に特撮シーンの美術監督を依頼し、そこで〝極寒の世界〟というイメージから、東宝特撮映画『妖星ゴラス』(1962)の怪獣マグマの改造を思いついたのだろう。
  「マグマは円谷英二特技監督のアザラシやセイウチの怪獣という注文で、どう工夫しても怖さが出なくて困ってしまった」とは、渡辺美術監督の弁。そのデザインをリファインして、「アザラシ状の怪獣」という万城目のセリフに合わせて、より生物チックなモンスターに改造している。

 「東宝ではやれないチャレンジをしてみるか」と渡辺明美術監督が挑んだのが、206便の超音速機のミニチュア以外、いっさいミニチュアのセットを作らず、ドライアイスのスモークだけで表現した4次元ゾーンで、氷山かと思わせて、噴き出すスモークの山が怪獣トドラと化すイメージを映像化。リアリズムでない4次元ゾーンのカット・ワークを見せている。それはまるで、不安に襲われた万城目たちの心理に感応したかのような出現シーンだった。

 東宝特撮の怪獣出現シーンは、〝あくまで現実感のあるリアリズムを守り抜く〟という美術設計をつらぬいた渡辺美術監督だが(「甘い蜜の恐怖」ではリアリズムの特撮美術設計をつらぬいている)、4次元ゾーンというイメージに冒険したのだろう。だから、ラストシーンの富士山上空を飛行する206便のリアルな特撮シーンが効果を挙げたのである。
 東宝映画『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(1965)と同時期の作品で、渡辺明美術監督にとっても、おもしろい仕事だったのではないだろうか。

人気の投稿