2017年10月11日

EX10 「206便消滅す」のズーム合成

 「206便消滅す」は、まさに『アンバランス』で作られた4次元空間に呑みこまれる超音速旅客機206便の台本(作・山浦弘靖)で、怪獣路線へ変更した『ウルトラQ』とタイトルが刷られた初めての台本(脚本・山浦弘靖、金城哲夫)だった。4次元ゾーンに棲む怪獣のアイデアを金城哲夫が加えたのだ。

 合成担当の中野稔技師は、特撮シーンの画面から始まって、そこからズームバックしてくると、それを見ている人物がいるようなズーム合成をやってみたいと円谷英二社長に提案した。円谷社長は「そんなこと、出来っこない」と大反対。「なぜです?」と聞くと、「それができるなら、俺が東宝特撮でやってる」と言うのだ。
  中野技師は悔しくて、東宝が特製で作ったズームレンズを借り出して、レンズの形状を分析してみた。東宝技術部の岩淵喜一技師長が特別に研磨させたズームレンズは、ハンドメイドのために中央のトップ部分がわずかに中心からズレていて、ズームを回すと、焦点のポイントがわずかにズレて回転していることを突き止める。

  それで、そのわずかに回転する焦点の動きに合わせて、ドラマ部分の映像と、合成する特撮映像の両方を回転同期させ〝らせん回転〟させることで、両画面の光軸を一致させた。206便のコクピットの正面窓から見える、渦状の4次元ゾーンの映像からズームバックして、アクションつなぎにして特撮シーン→本編ドラマのズーム合成に成功したのだ。円谷英二社長は「どうやったんだ、これは?」と中野稔技師に聞いて、ミリゲージの中の微調整のチャレンジに、正直、技術者として呆れつつ、その挑戦を喜んでくれたという。

 実は、あの渦に呑みこまれていく206便は、木製の小型モデルを電気洗濯機を回して作った渦の中に落として、半日撮影し続けていた特撮カットの中で一番感じのいいフィルムを使ったものだ。「800フィート以上回した」というスタッフの話に、「大丈夫か!?」と日記に書いていた円谷英二社長にとって、とりあえずカットが生きたことにホッとした気持ちもあったのだろう。


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