2017年7月28日

第22回 野長瀬監督VS円谷英二の戦い

 円谷英二社長にとって、「ペギラが来た!」の完成度は『ウルトラQ』のエンターテインメントとしての可能性を見せる作品になるはずだった。東宝映画の本多猪四郎監督との仕事では、本多監督は脚本を線で割っていく〝字割り〟で、両者の演出を読み合って1本に編集していく。

 だが、今回はドラマ側の監督がその特撮を受けるカットをサイズ(アップか、バストショットか、ロングか)、長さ、アングル(アオリか、見下ろすか、正面か)まで計算して撮影してくれている。特技監督・円谷英二にとって、初体験ともいうべき特撮シーンの撮影にノリにノッた。

 さあ、本編ドラマ班のパート、特撮班のパートを合わせる編集が始まった。円谷英二は編集しながら特撮を生かすため、本編パートを少し切り始めた。野長瀬三摩地監督は黒澤監督仕込みの監督権限で、円谷が増やした特撮カットを「これは要らない」と切って行く。何度も何度もフィルムが行き来するうちに、どんどん互いのカットが短くなっていった。

 円谷家の庭にある円谷技術研究所で「これがベストだ。最高の仕上がりになった」と円谷英二。翌日、野長瀬監督は自分のベスト版と違っているのを見て、円谷英二がさらに手を入れたことを知った。

 当時、特撮班の演出助手だった大木淳さんの話。
「ここでもし、野長瀬さんが監督として、自分の編集に戻せと言ったらどうなるんだ。円谷社長の意地もあるし……。すると野長瀬さんが〝円谷さんがこれがベストと言ったのなら、オレが折れよう。天下の円谷英二がそう言ってくれただけで、オレは満足だ〟と言ったんです」

 野長瀬監督に取材した時、この話はかけらも出なかった。私は大木さんと、記録の宍倉徳子さんからこのエピソードを聞いただけである。
 こうして、円谷英二が編集した「ペギラが来た!」を私たちは見ていたのだ。対する野長瀬監督のベスト版は、どういう形だったのだろうかと夢想するばかりだ。

人気の投稿