2017年7月8日

第2回 人間が怪物になる恐怖

 『ウルトラQ』を小学5年生から6年生の時に見た私にとって、かなり怖いテレビ番組だった。そのベスト1級に震え上がったのが「変身」のワンシーンであった。

 主人公の昆虫学者が婚約者の恋人と山に蝶の採集に行く。2人とも捕虫網を持って楽しそうだ。ところが、彼の目がある蝶をとらえた。「モルフォ……まさか!?」それは絶滅したはずのモルフォ蝶だったのだ。もしこれを採集して発表すれば、世界的な発見になる。男はモルフォ蝶を追いかけて、どんどん森の奥へと向かっていく。「待って下さい」と叫ぶ恋人をあとにして。森の中に霧が漂い、彼の名を呼び、探す恋人……はぐれてしまった。「う……ううっ……うわー」と叫ぶ男の声に、駆けつけた彼女が見たものとは!?

 2メートル近いモルフォ蝶が、毒鱗粉をまき散らしながら男の頭上で羽ばたいている。その下に横たわり、胸をかきむしっている男。毒性のある鱗粉で息ができないのだ。近づくことができない彼女。そして、のどが灼けて近くの池の水をゴクゴクと飲む男。気づいた時、男は木の上の高さから彼女を見下ろしていた。彼の身長は6メートル以上に変異していたのだ。悲鳴を上げて逃げていく恋人。このシーンにはゾゾーッとなった。

 1978年頃、梶田興治監督にこの変身するシーンについて「鱗粉のせいですか?」と聞くと「恋人を捨てて名誉心からモルフォ蝶を追った時、彼がアンバランス・ゾーンに落ちていったわけ。人間じゃない行動を彼がしたから変身した。その入り口の象徴が巨大なモルフォ蝶だっただけで、科学的に鱗粉で巨大化したということではないんですよ」と笑みを浮かべていた。

 脚本では、巨人が自分を捨てて山を下りていった恋人をラストでなじるセリフがあったのだが、「なんだか身もフタもない感じがして、声にならない声でうめく形にしたんです」と梶田監督は語っていた。人間の心のダークサイドの香りを一瞬感じたのだろう。子供心に感じた「変身」の怖さは、今も忘れられない。

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