2017年7月21日

第15回 「金がかかりますよ、いいんですね?」

 円谷プロに野長瀬三摩地監督がやってきた時、金城哲夫たち円谷プロのメンバーにはある緊張があった。黒澤明監督の『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』『生きものの記録』や、本多猪四郎監督『モスラ』のチーフ助監督を務めた人である。

 円谷プロに積んであった脚本を読んでいた野長瀬監督が「この作品にしよう」と選んだのは、山田正弘脚本の「ペギラが来た!」だった。山田正弘は円谷一、中川晴之助たちにとって先輩のTBS大山勝美ディレクターと名コンビの脚本家で、三島由紀夫原作の「鏡子の家」(岸田今日子の主演で評判だった)や「石原慎太郎ミステリー」などの不条理ミステリーの脚本で話題であった。

 「自分なりのゴジラを撮ってみたい」と野長瀬監督は思っていた。「未知の生物である怪獣と対決する人間の英知と勇気を描いてみたい」黒澤組育ちの野長瀬監督にとって、東宝特撮映画にはある種の不満があった。ミステリーやSFも愛読していた読書家で、そんな作品が作れる気がしていた。

 円谷英二社長に会って「この作品は金がかかりますよ、いいんですね」と重ねて確認した。ロケ撮影は一切なし。オールセットで南極を描き、セットには氷柱を立て、越冬隊の雪上車は実物大で製作する。円谷プロでは「ペギラの1本目は、まるで映画だった」とスタッフが長く語り伝えていた。

 野長瀬監督は一人黙々と、ある作業を続けていた。自分のイメージをすべてのスタッフに伝えるための作業だった。

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