2017年7月18日

第12回 『モスラ』予告編の㊙エピソード

 映画の予告編は、ふつうチーフ助監督がその映画の一番良い所を撮り上がっているカットの中から選び、どう組み合わせるか、字幕のキャッチはどうするかといろいろ工夫して作るが、監督へのワンステップとして演出力を試される重要な仕事だった。

 黒澤明監督は予告編も作品だとして自ら手がけ、助監督任せにはしなかった。黒澤作品『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』のチーフ助監督だった野長瀬三摩地さんは、黒澤組を離れて古澤憲吾監督や他の監督に付き、『モスラ』で本多猪四郎監督のチーフ助監督を務めた。そして撮影が進む中、いよいよ予告編を作ることになる。

 黒澤監督の予告編作りを見ていたものの、怪獣のカットをどうやってつなげたらいいか「正直、考え込んでしまった」と野長瀬監督は述懐する。
「するとね、編集ルームで夜に作業していたら、円谷英二さんが〝三ちゃん、どう? 作業は進んでいるかい?〟と顔を出した。予告編のことが気になったんじゃないかな。
 〝なかなか難しいですね〟と言うと、円谷さんが〝東急デパートに突っ込むモスラのラッシュが上がってただろう。そのカットのBキャメラ、Cキャメラの分はどうした?〟と言うので、見つけて渡すと指でフィルムを送りながら、ハサミで切ってつないでいく」

「〝例えばさ、こうして繰り返して量感を出すやり方もあるんだ。ま、見てごらん〟と円谷監督が渡してくれたフィルムをムビオラで見ると、東急デパートに身をのけ反らせて突っ込むモスラ、山手線のガード越しに斜めに見上げたカット、恵比寿方面の裏側から撮った崩れるデパートのカットがつながっていて、モスラが突っ込む1カットだけとは違う量感があった」

 編集でこんなに見た感じが変わってしまうのかと野長瀬監督は仰天したという。
「〝まあ、こんな感じで1カットじゃなくて、カットの積み重ねが大事なんだ。参考になったかい?〟〝ありがとうございます〟そんなことがあったんだよ」と回想する野長瀬監督。

 ただし、その東急デパートのカットは予告編に使われていない。後から東京タワー関連のカットが上がってきたし、映画の見せ場をバラすわけにはいかないからだが、野長瀬監督が特撮の秘密を知った貴重な体験として、その心の中で熟成を続けていくのである。

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