2017年7月22日

第16回 フル絵コンテに挑む野長瀬監督

 野長瀬三摩地監督は黒澤組にチーフ助監督として付いた時、黒澤明監督のイメージボードと簡単なスケッチでも映像が思い浮かぶ指示にいつも驚かされた。もう一人、よく助監督で付いた稲垣浩監督も、ここぞというシーンでは器用にスケッチを描いて美術スタッフに指示を出していた。京都の有名な日本画家・野長瀬挽歌を父に持つ野長瀬監督も絵心があり、特撮もやる気満々だった。

 1978年夏、世田谷区成城の西にある喜多見市の野長瀬邸を訪ねた時、監督は『ウルトラQ』の台本を机の上に並べて、
「『ウルトラQ』はどの作品にもいろいろな思い出があるんだけど、特に『ペギラが来た!』と『東京氷河期』の2本は、全カット絵コンテにしたから特別だった」
 と、ページを開いて私に見せてくれた。

 台本の上3分の1は、ふつうメモなどを書き込むために余白になっているが、そこに鉛筆で四角いフレームの画面が描いてあって、その回りを青鉛筆で囲ってあるのが特撮シーン、赤鉛筆で囲ったのが合成シーンの指示であった。
 印象的だったシーンを見てみると、氷を掘っている万城目たち。氷山の向こうから近づいてくるペギラ。最初は気づかず、ハッとして振り向く万城目。ペギラ、冷凍光線を吐き出す。実際の画面そのままのコンテだった。

 「この人があのシーンを思いつき、作ったのか!?」心の中で確信した。野長瀬監督はそんな私を見てただ笑っている。

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