2017年7月30日

第24回 怪獣ファンの評価が低かった「バルンガ」

 入魂の仕事だった「ペギラが来た!」だが、「バルンガ」(脚本・虎見邦男)も野長瀬三摩地監督がこだわった作品だった。

 もともとの脚本は、風船怪獣が日本社会のあらゆるエネルギーを吸収してしまい、皆、自転車で移動するようになり、社会が大混乱するという、一種の童話みたいな話だった。野長瀬監督はもっとシリアスにしてみようと、作者の了解を得て、社会学的、哲学的なセリフを奈良丸博士や万城目の会話に付け加えた。

 モンスターとしてのバルンガの魅力は、小学校低学年にはなかなか難しく、私は小学5年生の時、エリック・フランク・ラッセルの『みえない生物バイトン』(翻訳・矢野徹。『超生命ヴァイトン』のジュブナイル版)を読んでいてSFを少し知っていたので、バルンガの回を見て「これはSFなんじゃないか?」と思い、「君は洪水に竹槍で立ち向かうのかね。バルンガは自然現象だ。文明の天敵というべきか……」という奈良丸博士のセリフになんてかっこいいんだと感動した。

 ロバート・シェクリイというSF作家の名作『ひる』は、エネルギーを吸う宇宙生物の話で、明らかに「バルンガ」はその影響を受けているが、野長瀬監督のダイアローグ演出や、ドクン、ドクンという心臓の音と共に東京上空に浮かぶバルンガの合成シーンで、受ける印象はまるで違うものになっている。
 SFファンが騒いだことで評価が高まった、『ウルトラQ』のSF編の傑作であった。

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