2017年7月16日

第10回 キャメラマンが挑んだ特技監督

 『ウルトラQ』の中で「クモ男爵」は、夜の霧の中で始まり、夜が明ける寸前の闇の中の霧で終っていく。何だか古老が囲炉裏端で話してくれる昔語りのようで、灯台や沼の中に建つクモの巣だらけの洋館と道具立ても揃っていて、脚本の金城哲夫と円谷一監督が日本を舞台にホラー・ファンタジー作品が作れるだろうかと挑戦した作品だった。ゲストもちょっとバタくさい若林映子や滝田裕介と豪華で、演技も見応えがあった。
 
 特技監督は東宝特撮映画『地球防衛軍』『美女と液体人間』『宇宙大戦争』『ガス人間第1号』『マタンゴ』など、本多猪四郎監督の右腕として本編ドラマ部分の撮影を担当してきた小泉一キャメラマンで、「育てよ!カメ」とこの作品が唯一の特技監督のキャリアだった。

 それまで手がけた特撮映画を通じて「自分が特撮をやるなら、こうは撮らない」と考えていたのではないかと思うようなカット割りで、操演中心の巨大グモの描写、崩れていく洋館の照明処理など、ドラマの中で見せる怪獣の描き方を工夫してサスペンスを高め、『ウルトラQ』の中では怪奇譚ともいうべきこのエピソードに貢献した。

 円谷英二にとって、本多組のキャメラマンとして深い信頼関係にあった小泉一特技監督は編集も見事にこなしていて、「ドラマのキャメラマンでも一流ならば、やはり特撮もこなせるんだ」という持論を証明できたのではないだろうか。

人気の投稿